ある三姉妹の物語
それはあるところ、ごく普通の田舎町の商店街のこと。
そこにあるお店の三姉妹の物語です。
三姉妹は昔から街でタバコ屋をやっていました。いつも三人が店番をしています。
彼女たちは客を不愉快にさせました。
とんでもなく不機嫌な顔でお客に応対をしていました。
嫌な雰囲気がビンビン伝わってくる、そんなお店でした。
タバコ屋ですからいろんな銘柄が並んでいます。
それは愛煙家にとってはちよっとしたコレクションのようなものです。
お店の品揃えはよかった。
ところが、これをじっくり眺めてなんかいると、とたんに冷たい視線が三人から注がれます。
カウンターの向こう側にいる三姉妹は揃って不機嫌そうにして、「何をお探しですか」なんて、トゲのある声で追い立てるように聞いてくるのでした。
三姉妹は、どうやら客がお店にいつまでもいるのが気に入らないという感じなのでした。
だから、店に入るとたいていのお客は追い立てられるようにしてそそくさとタバコを買って、出て行くことになります。
その街で「シガリロ」なんか売っている店はそこぐらいでしたから、こんな店の態度にも愛煙家の客は我慢しなければなりませんでした。
でも時々、店になぜか小汚い爺さんがいて、その三姉妹を捕まえて延々と何かを一方的にしゃべっていたりするのです。
もちろん三姉妹はみんな上の空。
適当に相槌を打っています。
きっとああいう親戚か何かの客、余計な世間話をするような人がたまに来て、それが昔の馴染みで無碍に断ることもできず、勝手なおしゃべりをして帰っていくのにずっと耐えていたものだから、あの三姉妹はすっかりお客が嫌いになったのか。
そんなことが想像されました。
そうして、どうも三人ともまだ独身のようでした。
よい大学を出て、色々と良縁もあったはずです。ただあのイラついたカサついた性格は誰にも変えられなかったのでしょう。
私は、ずっとこの三姉妹の店と付き合ってきました。
難しい性格の部下のために誕生日プレゼントを買ったのもこの店です。彼に似つかわしい店ではないかと私は思ったものです。
買ったのはジッポの復刻版でした。
火打石の変わりに火薬でバチンなんて大きな音をさせて火花が飛んで火をつけるというもの。
仕事の難しい時にゲテモノ好きの彼にそれをあげて、私は彼のご機嫌をとったのです。
ちゃんと店でプレゼント用に包装してはもらいましたが、その時も何かせわしなく、いつものように「早く帰れ」という圧力を感じたものですww。
こんな、ちょっと怖いところのあるようなタバコ屋でしたが、とうとう私は、最近、ちょっとした発案から彼らの態度を変えさせることに成功したのでした。
実はタバコを葉タバコに変えたので、どうしてもその店にわざわざ行かなければならなくなったということもありました。
どうせ行くなら、せめて気分よく買い物がしたいものです。
そうして私は店に入ると快活に、元気に「どうも!ww」なんて笑いながら店に入っていくようにしたのでしたw。
もちろん無駄口はききません。グズグズと店にいついたりはしません。
サッと買ってサッと出て行きます。しかしこちらは気分よくニコニコして店に入ってゆきます。
これが何回か続いて暫くすると、三姉妹も少なくとも機嫌の悪さは見せない対応をしてくれるようになったのでした。
対応は明らかに違ってきました。
三姉妹は何かを変えてくれたのでしょうか。
私は彼らの態度を変えることができたのでしょうか。
店はすっかり古くなりましたが、三姉妹はいつものように店番をしています。
「北風と太陽」ではありませんが、私は難しい不機嫌な三姉妹をせめて常識的なぐらいの人当たりができるように変えられたのでしょうか。
みながかしこまって訪れる、不機嫌な三姉妹の店に、昔から知っている私がわざわざ威勢よく元気で快活に買い物をしてくることで、三姉妹は何か気づいたのでしょうか。
それは私にはわかりません。
けれど少なくとも私が不快にならず、普通にタバコが買えるようになったことはよかったことかなと、私は思っています。
おかげで毎日のタバコが旨いのです(笑)。
おそまつ
