かつて大御所俳優の孫弟子だったことw
想い出話というものは振り返りの多いことなのよね。
☆
アタシとて、青春を輝かせていた頃があった。
毎日がクルクルと目まぐるしかった。
モノゴトに前後の見境もなかった頃があったの。今でもそうなんだけど(笑)。
まあ、別な言い方をすれば、アタシはいつもアホみたいに落ち着きがなかった。
その頃は、それこそ、死んでもいいというぐらいに毎日を忙しくしていて、手当たりしだいに色んなことをした。
そのひとつが劇団に入ったこと。
新聞広告か何かで見つけて、アタシはすぐに入団を決め、アタシはその劇団を尋ねた。
そしてわずかの間だったけど劇団員の見習いになったの。
聞かれたことは犯罪歴とか出身地とかそのぐらい。
まあ、新聞配達なんていったら犯罪歴すら調べなかったんだから、むしろマシだったかも知れないわねw。
そして、そこの座長は、それはそれは有名な、その時も大活躍の大御所の、現役俳優のお弟子さんが座長だった。
十人ぐらいの役者が所属していた、そんな小さな劇団だった。
初めて会った時、自分を大きく見せようとするようなタイプの座長さんは、アタシに最初から、まるで古くからの師匠のように振舞ったものよ。
アタシが座長に気に入られたかどうかは、ちょっと分からなかったけれどwww。
座長さんも含めて、みなが前衛っぽいことをやっていた劇団だったから、とにかく人材も足りなかったようで、アタシはまんまとそこにもぐりこむことができた。
まあ「見習い」とは言われなかったけど、アタシの立場はそんなものだったでしょう。
そのアタシはと言えば、実は裏があって、ひどく自分を造って、いつもとは違う人物としてそこに出入りしようと最初から決めていたの。
すべてを騙そうとアタシは決めていたってわけ。
これは前に話したことだけど、昔からアタシには自分にある多面性というものがあって、常にとまどっていた。
要するに、自分の異常さ、おかしなところにほとほと嫌気がさしていて、アタシ自身の中から出てくる雑音をホントに煩く感じていた頃だったの。
もちろん、なんども首を吊ってやろうと思い続けていたわよ。
しかし無駄なことはできない。
その時は今の嫁もそばにいた。
どうせなら野中宏務あたりに自爆テロでもするしかないw、考えられることはそんなぐらい。
で、結局はなかなか死ぬことはなかった。
自分の価値を高めて死なないと死ねないのよ。
だから、劇団員募集の広告を見たとき、それならいっそ創作して完全に自分というものを造ってやれ、って、アタシは真剣に思いついたの。
それが劇団に入ろう思った直接の動機だった。
そして嫁には断らずに勝手に入団したの。嫁も忙しかったし。
アタシはその新聞広告を見たとき、すぐにそのことを思いついていた。
誰も見たことのないアタシの喋り方、動き方、挙動。
自分が鏡で見ても、まるでアタシとは分からないぐらいにアタシは自分を造った。
それこそ、お芝居の訓練を実地でやるようにしてアタシは自分を造って演じ、その劇団の稽古に通ったの。
そりゃあその劇団にいる時は稽古中でなくても集中したわよ。
ひたすら自分のキャラの辻褄あわせをした。
それこそ全力で、アタシは自分の正体を隠した。
そうしてアタシは自分の痕跡を消したの。
常にひとりの人格として、一貫した態度になるようにしてね。
変わり者で何も感情の起伏のない人物。
無感動でどこかボンヤリしてて、何かのトラウマか何かの理由が窺え、言われるままに喋るしか能のない、まるでロボットのようなヤツ。
そしてほとんど笑わない。
異常な感じだけど、みんなにはそれが何なのか分からない、でも、みんながおかしいと必ず思うようなヤツ。
心の中には何もないようなヤツ、そして、ふらりと演劇に興味を持ったから来てみたというような、それがアタシの創作したキャラだった。
アタシはずっとそのキャラを維持して演じ続けたの。
その気持ちの入りようが過ぎてしまって、劇団から帰るとすっかり疲れてしまうぐらいだった。
座長はそんなアタシに興味を示して、よく稽古をつけてくれた。
見習いにしてはアタシをよく構ってくれたと思う。
稽古なんて言っても、発声とかそんなんじゃなくて、とにかく喋ってみろ、叫んでみろ、自分をさらけ出してみろ、魂を晒してみろ、そんなヤツ(笑)。
今思うとダサイわよねえ(笑)。
それが芝居の稽古だってんだからww。
まあ、それでもアタシには何かやっているというところがあって満足は出来た。
もちろん給料なんかないわよ。
「劇団員」なんだからwww。
そんな風にアタシは時々行ってはシゴかれ、稽古場の雑巾がけもし、他の役者のみんなが見ている前で自分を晒されたりした。
アタシが来る前はバイトなんかがある他のみんなが既に稽古を済ませていて、アタシが現れると短いアタシの時間になったってわけ。
まあ、でも、その時に赤裸々に晒してみせた自分ってのも、アタシの作り物だったのだけれど。
座長はあの時、メンタル的な何かをやりたかったのよね、きっと。
精神的に追い込んで、泣き叫ぶような感じのことをさせたかったのだと思う。
座長の師匠というのは有名な大俳優で、誰もが知っている現役の役者だった。
その師匠に怒られた話なんかも座長はしてくれた。
アタシは興味深くそれを聞いたわ。
なんでも、キチガイの端役をやるのに、座長はどうするか悩んで、とうとう酒を飲んで舞台か撮影なんかに臨んでみたら「おまえのそれは演技じゃないだろう」って、ひどく怒られたんですって(笑)。リアルでは演技じゃないんだって。
なんだか浪花節の世界よね。
それとも例の寺山修司とか?
きっとそんなやりとりだったんでしょう。
でもアタシのはもっとリアルだったのよ。今そこにあるリアル(笑)。
だから何も感じなかった。
ちょっと面白いストーリーぐらいに思えたぐらいよ。
そういう目をしてその話を聞いているアタシは、さぞかし不気味だったでしょう。
その座長のお師匠さんというのは、誰でも知っているぐらいの、とても有名な大御所の俳優。
でも、アタシの座長と言えば、彼って前衛的な演劇の人よ。
まるで畑が違うように思えた。
アタシはその世界は分からなかったけど。
ともかく、アタシはそんな劇団に見習いで入団したことがあるの。
それはとても面白い経験でした。
だから、アタシは、ある時期、ある大御所俳優の孫弟子だったってことになるわけ(笑)。
