おい!これはちょっとした店ならいい値段するぞ!
えーーー、しかしなんですなぁ
どういうわけか、みなさんそうおっしゃる。
どうしても言ってしまうようなんです。
どうして、こう、
人というのは、いつもお店、
飲食店、外食とというのが基準なんでしょうねぇ。
奥方にはちょっと困ったものだなんて、
きっとそう思われてんでしょう、思ったりします。
たいてい、
ってえと、 ねぇ。
ご自分がおつくりになって、それが良くちょっと美味しくできたなんてことになると、旦那衆に関してはたいてい「こりゃあうまい、最高だ!」なーんて自画自賛するもんですな、、
しかし、旦那衆の場合、これだけには終わらないものなんです。
続けて、必ず、どこかの料亭や割烹なんてものになぞらえちまう。
そうして、こうおっしゃるものなんです。
おい!こんなの!
これはちょっとした店ならいい値段するぞ!
なんて。
あれはいったたい、どうしてなんでしょうねぇ。
うるさいったらたまりません。
あれは困りますよぉ。
ええ、困りますとも。
だって、ああた、考えてもみてください。
人が料理をする、それがおいしくできる、みんなが喜ぶ。
それでいい、そういうものじゃありませんか。
ところが人間ってえのは贅沢なもの、そういう贅沢を常にしたいものなんです。
「へへーーえーーーいっ」なんていって、お辞儀してくれる店がある
それこそ板前が総出で店先に客を出迎えてくれるような、
そんな割烹なんかを嬉しいと思う、
それが贅沢だと思ってしまう
それが男、旦那衆ってなものです
ね、
そうでしょ(笑)。
それが我々、男にとっての贅沢てえなもんですかから、そこでつい思い込んでしまう。
ああいうところで出されるものは最高なんだ、と、
一生に一度ぐれいはああいうところで贅沢がしてえ、と、
いっつも私たちは思い込んでいるんですねぇ、そんなことをね
しかしそれが困る
家計というものにはたいそう負担なんです
なんでえ!旦那が旨いものを食うのも仕事のうちでえ!
なんておっしゃる。
しかもそれは違うというもんです
旨いもんなんて何も店じゃなくていいんです。
贅沢ってえのは、本当に美味しいものを食べられる満足でありましょう
え?
別にいくらカネがかかろうと意味がありません。
美味しい美味しいと、腹が涙を流して喜ぶような、それが本当の贅沢というもの。
だからそういう思い込みはいけません
いけません・・・
お金ばかりがかかってしまいますから
だから何も、我々が作る料理ってえのが、いつもああいうものに劣る、
なーんてことはありゃしないのです。
例えば、世の旦那さんというのはね、
毎度ね、
仕事帰りに美味しいものを食べて帰ってくるもんです
そして色々と外で味わっているのかも知れませんが・・・
しかしそれがこのコロナ騒ぎだ(笑)
不要不急、っとね、
そういうわけです(笑)。わけですよ(笑)。
もう、そうそう旦那衆だって、いちいち出歩いて食べ歩いたりは出来ません
だからってんで、男子厨房に入り浸ります
勝手なことをしてあちこちに汁だの粉だのを飛ばして、
そうして旦那さんが、色々と工夫を凝らしている
今夜は俺が腕をふるってやる、なんていって、
美味しいものを作ってやろうとするわけです
俺にまかしとけ
なんて言ってね(笑)
このハヤリ病で家にいる旦那さん、みんな暇でしょうがないもんだから、
奥方が料理をこしらえるのを手伝ってくれる
大きなお世話(笑)。
まあ、慣れない包丁さばきではあるんですが、
おかみさんからすれば少し面倒くさいことになっている(笑)
しかしそのお料理。
いつもの奥さんの発想ではありませんから、
ちょっと変わったことをなさいます
奥方はこれを黙ってみています
それこそブリの白子なんてぇのを使って、料理しようとする
旦那さん、安いものだが調理するのはみたことがない、
食えばうまいが、これは不気味な代物だ、
ぶよぶよしてらあ(笑) なーんて
もともと、白子は奥さんもあまりやりたがりませんし、
やるとしてもいつもの醤油味の甘辛の煮付けだ
白子だなんて、奥さんの方もいつもなんだか味がよくわからない
よおーーーし、そんなら俺がやってやろう
いつもの白子を旦那さんが調理してみる、ってんです
奥方はお手前拝見とばかりに静観する。
でも粉とか色んな汁とかあちこちに飛ばさないでちょうだい
お台所が汚れたら掃除するのはワタシなんですから
って、
奥方はハラハラしてる。それこそ願うような心持ちだ
それでってえと、旦那さんは料理の基本なんか、まるで分かりませんから、
思いついたところで適当な味付けをしています、
焼こうと思ったらなんだかネバネバしてやがるなぁ
ブヨブヨしてやがる
そしたら粉を振ってみたらどうか、
そして焼いて、
ああ味付けを忘れた、
それで冷蔵庫にあったドライトマトの水煮でも出す、
それとオリーブを絡めて仕上げにしてみる
塩コショウ、
そして試食
おっ(笑)
これはなかなかイケる
美味いもんだ
あれまあ、なんという偶然か
これがなんとまあ実に美味いんだ。
とても美味しいんだ(笑)。
涙が出るほど美味しい。
ブリの白子の、何か不思議な味わいを少し酸味のきいたドライトマトが引き立てるようにして、ふわふわとした、白子特有の優しーーーーい、味わい
微妙な味わいを引き立てている
うん、臭みはないんだ
醤油の甘辛なんてそればっかりではいけません
別にショウガも必要ない
別に生臭くはない
こんなのは今までの思い込みってえやつだ、
醤油の甘辛煮じゃあ白子の味がよくわからなかったというだけ
奥方も感心して美味しいそうに食べている。
するてってえと、旦那さん、奥さんに必ず云うんだ
おい!
これはちょっとした店ならちょっとした値段はするぞ!
・・・
なーんて、自分で作っておきながら、
店の出す料理と比べてどんだけ上等かなんて
そんなこと言っていたら世話はありません。
キリもない。
wwww。
どうして、世の旦那衆、
みんな、世間の料理屋で出すものなんてえのを基準にしちまうんでしょうねぇ。
美味しかったらそれでいいのに、
かくして白子の心は白拍子。
「なにもいちいち、
売りモノにしちまうことはありませんのに」
というオチでざいます。
おそまつ
以上、今日は、なんだか古今亭志ん朝の語り口でお届けしておりやした。
下のような感じで、古今亭志ん朝なんかの語り口を想像して、再びお読みいただけると、いい。
ひと口で二度美味しいですよw。
どうぞ召しあがれ(笑)。
アタシは、そんな風に楽しめると存じておりますです、
はいwww・・・。
おい!
これが独演会ならちょっとした真打ちだぞ!
いやおそまつ
