【エピソード】元横綱、北の富士勝昭の見た夢
※ コロナのガイシュツ自粛のせいか、みなさんのブログも更新が多くてw。
楽しく読んでいます。ありがとう。
北の富士勝昭という人がいる。
いわずと知れた大相撲の名解説者。
彼を語ろうとするなら、誰の言葉を使ってもあまりにも足りないだろう。
元横綱で、横綱二人を育てた元親方でもある。
自然体で素直、極めて実直で正直な男。
朗らかで常にすがすがしい。
男でも惚れるというぐらい、そんな男はそうはいない。
飄々とした好漢だ。
常にどこか洒落ているところがあって、常に一人の人間として生きている。
人の面倒見ることなど、彼にかかったら余計な情でしかない。
甘い話のない人だ。
そして実に頭がよい。
夜の街を泳ぎ、よく色を好み、それでいて節度がある。
女にはまず惚れさせようとする男気があると聞く。
これだけの70代後半の老人など、いったいどこにいようか。
この人を嫌う男がいるというなら、間違いなくそいつはどこかおかしいヤツだろう。
・・・
そんな北の富士、先日の大阪場所の振り返りのこと。
コロナウィルスの感染拡大への対応での無観客場所という椿事の中、彼は解説席に座り今場所の惨状を嘆いた。ウィルスとは言え、悔しさをにじませた。
だが15日間、日程が進むうち、彼とて次第に慣れてくる。
そして何日か目、突然に北の富士は解説中につぶやいた。
「そーいや、俺。夢を見たんだよ。」なんて。
それは前代未聞のことだった。
生放送で、解説者が自分の夢を語りだしたのだww。
しかしその夢とやらの話が実に興味深いもの。
北の富士「夢でね、道を聞いているんだ、俺は。炎鵬に。」
アナ 「www それで炎鵬は教えてくれましたか?」
北の富士「いや、それがぜんぜん、モゴモゴやって、教えてくれないんだ(笑)。向こうに白鵬が映った。」
アナ 「・・・www」
北の富士「あれはなぁ・・・。(笑)」
アナ 「いや、いや、北の富士さん。昭和20年代以来のNHKのこの解説で、ご自分の夢の話をされた解説者は北の富士さんが初めてでしょう・・・。」
北の富士「だって見ちゃったんだから、ねぇ(笑)。」
夢診断。
口には大きくは出さないが、北の富士とて相撲のことを考えている。
現役でなくなった今も、解説をして相撲を見て、相撲道のことを考え続けてきた。
その伝統と格式、相撲という存在、相撲取りという人生にとって相撲道ということの重み。
小さなカラダの炎鵬を見る。現役関取の中でも最も小さい。
取り組みは常に巨人に挑む虫のようだ。
それでも炎鵬は勝ったりする。技を駆使して相手を揺さぶり、大きな相手をねじ伏せてしまう。
炎鵬の相撲は面白い。
しかし、この小さな力士が横綱になるなどとは考えも及ばない。
本人もそれは分かっているはずだ。
いったい、本人はそのことをどう考えているだろう。
北の富士もひとりのファンとして、炎鵬に聞いてみたいと思っている。
何を目指しているのか、と。
力士になった以上は誰もが横綱を目指すという。
今は朝乃山が一番の有望株だ。もしかしたら横綱になるかも知れない。
では、炎鵬はいったい、何を目指して相撲をとっているのか。
その自身の相撲道の先に炎鵬は何を見ているのか。
北の富士はその夢で炎鵬に道を聞いた。道を尋ねた。
しかし炎鵬は教えてはくれない。
彼には自分の相撲道があって、それは違うものなのかも知れない。
とうとう答えは出なかった。
ふと、その夢で、向こうに白鵬の姿を見た。
いや、北の富士が疑問に思っていたのは炎鵬の相撲道のことではなかったのだ。
白鵬の相撲道のことだった。
あの汚い立会い、横綱の立場を逆用した張り挿しの多用。
横綱の品格や存在などより、まずは勝ちたい、優勝したいというだけの欲しか見えぬふ。
お前が目指しているのは何だ?
尊敬されその堂々とした姿勢に賛辞が送られ記憶に残る横綱より、目先の優勝か。
そんなものはすぐに忘れられてしまうぞ。
価値のないトロフィーを積み重ね続けてこの先どうする。
北の富士はそう問いたいはずだ。
北の富士は元横綱として相撲道を考える男として、白鵬のことを心配もし、考えてきたに違いない。
そのもやもやしたものが夢となって現れた。
北の富士には教育はない。
だからそんな自分の考えを放送席から仄めかすための夢の話、そんなものではなかったことは間違いない。
あまりにも教科書的な夢。
素直な男の人生はここまでのことがある。
しかし実際には、北の富士とて白鵬への批判はそうそうハッキリとは口にはできないだろう。それは分かる。
相撲人気に水をさしてどうする。
白鵬によって優勝の記録が塗り替えられ、記録が伸びてゆくのを単純に喜んでくれる客もいる。
そっとしておけば相撲の人気は続く。
だが、相撲道はどこへ行くのか。
地に足のついてない人気などすぐに吹き飛んでしまうだろう。
そのジレンマ。
北の富士はそんなことを白鵬について時々は漏らしたりする。
ちょっとした言葉にそれが表れる。
北の富士という男の見た夢は、そのモヤモヤしたものを反映したのだ。
興味深い、大阪場所の一節、振り返りのこと。
なぜかこの話はあまり世間的な話題にならなかったようだ。
みなさん、おうぞどだいじに
