番外、素敵な回転寿司での振り返り
それはある日、嫁と回転寿司に行った時のことです。
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まだ夕方前、それでも店内はそこそこお客がいました。
比較的小さなタイプの回転寿司のお店でした。楕円の小さなレーンを囲むようにして席があるだけです。中には寿司職人。
ガヤガヤとめいめいがお客がお喋りをしていて、板前が威勢よく声をかけている。
いつもの回転寿司の光景です。
私と嫁、すでにこの頃は回転寿司について一定の理解をするようになった嫁です、二人で何が回ってないかと着席すると早速、目を皿のように回し始めました(笑)。
真面目に、真剣に寿司をみつめていたのでした。
お互いに目で会話、ほとんど無言。
で、よさそうなのをいくつか注文してゆきます。
コハダ、納豆巻き、イカ、なーんて感じで注文をして食べていきます。
他のお客さんはひと通り食べてしまったのかお喋りに夢中。
外に並んでいる人がいたりして、混雑しているとすぐに出ないといけないような店ですが、そんなでもなかった。
で、気がつくと我々二人ぐらいだけが注文をして、そしてレーンを見つめている。
他は食後で談笑していて寿司を選ぶのに真剣なのは私たちぐらい(笑)。
ふと、さっきから何か魚をさばいていた板前さんがレーンの向うの隙間からぬっと顔をのぞかせました。
そしてニヤリとして小声で
「これ食ってみな、大トロだから」と言って皿を出してくれました。
えっ、と思いましたが、出された皿はウニやイクラのようなのが載る特別な皿ではありません。私たちが普通に選んでいるようなお皿です。
通常のもの。100円。
嫁と二人でそれを珍しそうに、ありがたくいただきました。
そのマグロのトロの熟成したような脂身の濃厚さ、コッテリしたそれでいて生臭くないチーズのような、霜降り肉のような、実に美味しかったこと。美味しかったこと。
あれはネタのマグロを捌いていてたまたま出たものだったんでしょう。
あまり普段はありつけないようなもの。驚くような味でした。
きっとあの時、板前さんは私たちが真剣だったことに敬意を表してくれたのではないか、今でもそう振り返ります。
嫁が帰りに言ったものです。
「いい子にしていると、とっておきの美味しいものが貰えるんだよ」
と。
ありがたや。
