無事に手術を終える
手術は二時間半。随分と長いと聞いていたが実際の処置は一時間だったようだ。
両足同時。一本につき30分。
あとは麻酔の時間。
手術は変形性股関節症。
先天的なもので年とともに症状が顕在化、痛み出したら末期の診断。とうとう直近はほとんど歩けなくなっていた。
手術の日取りを待つ間、これを嫁は「ヨイチョ」と呼んでいた。
スーパーではカートを使い、ほとんどまともに歩けなくなっていた。
このヨイチョを除去する手術。ふたつの足の付け根を人工股関節にする手術。
手術は滑り込みセーフなぐらいのタイミングだったかも知れない。
入れたのはチタンだと。
まあなんでもいい。
セラミックの方が親和性がいいような気もするが、判断するのはプロだ。
問題なく終えた。
評判通りの腕の良い医師にかかり、流れ作業のように手術は終わった。
やはり能力というのは経験、そのこなした数による。
手術室から出てきて、嫁が痛がっている。
「おい、大丈夫かよ」ニヤニヤと声をかけた。
こまごまと口うるさく嫌味を言ってやり、嫁をからかった。
麻酔が切れて切開したところが痛むのだろう。皮膚をこじ開けてグヂグヂやるのだから当然だ。
とかにかく我慢だ、我慢が大事だ。
麻酔が切れたらちゃんと痛み止めを貰ったほうがいい。麻酔が切れてないと嘔吐したらそれこそ一大事だ。手術などより麻酔、それが最も怖いのだ。
お前はさっきまで自分で息をしていなかったのだぞ。仮死状態だ。なーんてww。
戦友よろしくそんな厳しく注意を言っていたら、見かねた看護婦が優しく嫁に声をかけた。「この傷は頑張った証ですよ。」「今日頑張ったのはお医者さんですけど、明日からはリハビリを頑張りましょうね」。
なるほどお優しい。
しかしこういう時には意地悪くするほうが頑張る気になるものだ。
そう俺は少なくとも経験している。
「もううるさいよ。行っていいから。」
そうでなきゃ困る。
あらかじめ出血時のために取っておいた自分の血液をまた体に戻す。
点滴、ブドウ糖、呼吸を見ている。
記念に写真を何枚か撮った。
あんまりキレイに写せないなあ。ムリもないか。
そういやヨイチョのペンギンみたいな歩き方は可愛かったが、あれはビデオに撮ってないや。残念だ。
不意に目尻に浮かんだ涙を見て、涙を拭いてやって退散することにした。
人はそういう涙を流す。
死人からも涙が出たのを思い出した。
マリアから涙という話はそんなところから思いついたのかも知れない。
術後直後とは言え、いつもより少しブサイクになって寝ていたから、ああいう入院中でも化粧とかするのはやはりよいことなんくだろうと思った。おしゃれは大事。
人間は人間に見られるものだ。 死に化粧すらするものだ。
二三日して落ち着いたら化粧ポーチを持って行ってやろう。
俺はといえば、ブサイクどころか歪んでねじれた顔をしていた。
病院の鏡で見たら自分が死神のように見えた。
どうなるのかね俺はこの先www。
