カーディガンのこと
子供の頃のこと、やっぱり今のこんな秋口のこと。
☆
ある日、なんかシャツの上に紺のセーターみたいなのを着てきた子がいたの。
それはすごく遠目に目立った。
オシャレというか、大人っぽいというか、奇妙な印象があった。
男の子よ。
それがセーターじゃなくて、前がボタン開きになってるのね。
それが「カーディガン」ってものだった。
あれ、今、着てる人っているのかしら。
寒さをしのぐようなものには思えなくて、それはヘラヘラに薄くて、それで少し下のシャツが透けてて、子供心に少しセクシーな感じはしたわね。
やっぱりこういう感覚ってゲイっぽいのかしらね(笑)。
・・・
で、その子はそのカーディガンのボタンの一番下と一番上だけをなぜか外してて、なんかこだわりさえ見せてて、さりげなくて、かっこいいんだか、違和感があるんだか、不思議なものを見る目でアタシは見てた記憶がある。
本来大人しい内気そうな子で、目立たない、何か趣味でもあるんだか、あまり社交的ではない子。
それでも無理をしてかっこつけてるスネ夫タイプ。
でもモテないようだったのよねww。
ともかく、その未知の、カーディガンってものを着てきた彼には、アタシからしたらなんか大人の世界を知ってる子って感じに思えた。
その「大人の世界」ってのは、親戚とかアニキとか、そういう感じのこと。
タバコの臭いのする部屋で、弟子とか付き人みたいに年上の親族といるような、そんな感じ。
塗装工の親戚がいるとか、とび職の親だとか、とにかく、アタシからすればそれは「大人」という表現でしかできない。
繁華街の酔っ払いとか、デモとかしてるお姉さんとかそんなのとは違うもの。昔のサヨク、そんなのは色っぽかったのよ。日本人が多かったからww。
だから、外の世界とか、アタシの感じてる「街」ってのとはちょっと違うものだったのよ。
このニュアンスが伝わるかしらね。
街ってもっと殺伐としてて、雑然としてるでしょ。 色んな欲望があって、色んな人生があって、それぞれに教訓があって、でも悲しい。結局はみんな死んじゃうんだから。
その「大人の世界」ってのは、そういうのじゃない、「年上の身内の世界」そんななんかのこと、群れよ、そう。それは群れ。
ほら、他にも、誰かに影響されて誰よりも早く洋楽ロック聴き始めた子とか、ルールも知らないのにアメリカンフットボールを好きだと言い始めた子とか。
なんか誰かの影を感じちゃうアレ。
ともかく、カーディガンってそんなのかなって、へーって感じだったわね。
ところがそれがね、そのカーディガンってのがすごく臭かったのよ(笑)。
アタシはその子もよく知らなかったし、好みでもなかったから、それで近づかないようにはしてたんだけど。
とにかく臭いの。
あのボタンを一部止めないで洒落た気になっているところもすごく違う世界だなぁと思っていたんだけど、すぐそばを通るとあの臭いでしょ。
それがカーディガンってもののアタシの一番の思い出なのよ(笑)。
今だから振り返るとわかるけど、それって当時はあまり普及してなかった柔軟剤の匂いなのよねきっと。
・・・
今はすごくあれが臭くて、臭くて、あちこちで臭ってるでしょ。
特に今はドキュソに限ってなぜかあの匂いをプンプンさせてる。
もうテロみたいなもの。
あれでキレイになってると勘違いした旦那、嫁が着せるもんだから、オヤジ臭さと混じって始末におけない。
あちこちで不用意にあの臭いをかがされるんじゃ、いくらなんでもやってられない。
安っぽくて、鼻につく、嫌なにおい。
貧乏で、損ばかりで、馬鹿で、単純で、品がなく、身の程知らずで他力本願、子供のようにダダをこねる、そんな臭いよ。
花や木の匂い、雨の匂いを押しのけて、図々しくあの臭い匂いがどこからか漂ってくると、とたんに逃げ出したくなるわね。
犬も逃げ出すような感じ。
アレ、なんとかならないのかしら?
オトコの香水とかリキッドとか広告批評でやったけど、あれよりも数十倍はひどい匂いよね。
それが結局カーディガンと結びついて、アタシはずつとあのタイプを着たことがないの。
着たことがないものってそーいや色々あるわね。
アタシはスカジャンもスタジャンも着たことがない。
・・・
昔付き合った女の子に、セーターの裾をちょっと内側に捲り上げて折ってって、短くして着てご覧なさいよ、その方がかっこいいから、なんていわれたことがある。
要するにセーターを少し短めにして着るってこと。
踊ったら下がってきちゃうのになんて思った。
なんかヘンなこだわりねぇなんて、言われるままにしてあげた。それがカッコいいんだってww。
その子は花見に行こうといったらお弁当を作ってくれて、そこそこ可愛らしい子で、、、確かモノクロの写真があったのよ。あれ?
あーーー、嫁、あれ捨てただろ!
・・・知らん顔してやがんの。(泣
ったく、、、ヒトの写真捨てんなよ。
この名前のバンドがあるのよね。でも、この話とは別よ。
