豚汁は塗り碗でいただきたいもの
温かい汁がおいしい季節になってきた。
知恵袋にも豚汁の話題が飛びかう頃か。
そうやって見てみると、毎年そんな質問があるようだ。季節感があるのが日本のよいところ。
「豚汁」ってのは芋煮でもあるし、味噌汁でもある。
四ツ足の豚って素材を中心にして広がってゆく自在なものだと思う。
「鳥汁」はまだいいとしても、「牛汁」となるとやはり少し無理がある。
牛丼は食うが牛肉蕎麦や牛肉うどんはやらない。
どうしてと言われると困るぐらい理由なくやらない。
ビーフカレーは食うし牛鍋もやるが、どうしても牛と味噌や醤油を合わせて汁にはしない。
牛と味噌をからめて甘くして佃煮みたいなのにはするのに。
豚汁は豚の臭みを少しは気にしてやって、全体としてごった煮、それぞれの具から出るダシのハーモニーを楽しみたい。
ウチは食べ切りにはしないようにいつも大目に作る。
美味いものは少し残すぐらいに作っておいて、冷えてまた味がしみこんだものをいただきたいから。だから、そんなことを暑い夏にやれば腐る(笑)。
自分で作るなら、何も全部が溶けてしまうほど煮詰めてしまったような豚汁なんかにはしない。
そこは注意している。
そういう溶けるようなややドロドロになってしまったようなのも悪くはないが、どうせそういうものは油断していればできてしまうもの、外でよくご縁があって食べさせてもらえるようなものだ。
炊き出しとか参拝の振る舞いとか、ああいうところで出しやすいのが豚汁だ。
もしああいうところでシチューとか出していたら尊敬するよ(笑)。
豚汁にごま油を入れるなら香り付けなんだから出来てから入れるぐらいでいい。
よいごま油ならそのまま椀にタラしてもいいぐらい。
ゴマ油の香りがして上品な味になる。
シチューじゃないんだから野菜は炒めたりする必要もない。
どんどんぶち込んでいけばいいんだが、柔らかくなり過ぎたりしないよう投入する順番は考えるべきだ。全部一気に入れたら一気に食べないといけなくなってしまう。
もともと「炒める」というのは型崩れしないためと言われる。少しコガして味わいを出すというのもあるが、日本の汁の食生活だとあまり炒めることはしない。
日本の古来の料理ならせいぜい炙るぐらい。炒めるってのはほとんどない。
だから、柔らかくなり過ぎたり煮過ぎても溶けないものをまずベースに考えることにしている。
例えばエノキとかキノコ類。これなら溶けない。
ウチの場合はキノコ類が安く入手できたりするとすぐに豚汁を考える。
キノコの豊かな地方だと、エノキ、シメジ、舞茸、ナメコ、シイタケ、ぜーんぶ入れてキノコ汁なんかにするそうだ。聞くだけで豊かでとても羨ましい。
こいつを豚とで味のベースにして調整しながら野菜を投入すると簡単だ。
牛蒡、人参、玉葱、油揚げ、厚揚げ、シラタキ、こんなのは茹で過ぎても大丈夫。
牛蒡は特にダシがよく出る。別格というぐらい使える根菜。
ダイコン、里芋、ジャガイモ、こういうのは慎重にしないと煮崩れしてしまう。そんなにグツグツ煮なくてもちゃんと柔らかくなる。
カブは特に注意が必要だ。カブは火に弱いのですぐグズグズになる。そうなるとちょっといただけない食感になる。ウチはだからカブは漬物にして食うほうがずっと多い。クリームシチューには合うね。
ニラとかネギなんかは薬味として考える。白菜もそんなんで生で出来上がりに入れるぐらいでちょうどいい。キャベツはあまり使わないが悪くはない。切り方でなんとかなる。
一味とか七味、長ネギは薬味にしないともったいない。
生のまま刻んでちらす。
豚汁をいただくのは根来の椀を使っている。
具のたくさんあるような汁ものはこれでたいてい済ませている。
深い朱の塗り椀で、根来はたいてい大き目のものが作られている。
これをひとつ持っていると重宝する。
温かい蕎麦やドンブリものにも使えるから使い出がよい。
漆は洗剤なんか使わなくてもさっと洗えるのもいい。
素朴かも知れないが、そこを品よく食べれば心豊かだ。
今日の昼は実はこんな汁だった。それとご飯。
ダシを入れてないのに塩だけでおいしく食べられた。醤油もわずかの隠し味。
夕飯はこれに味噌を入れてまた野菜を投入して食うつもり。
ご飯でないなら味噌煮込みうどんにするか考え中。
すっかり秋。
めいしくおしあがれ
