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「メロン様だぞい」 チャットの思い出

思い出というぐらいの振り返り。

 ずっと前のことだ。
 すっかりチャットにハマって、それこそ仕事が済めばすぐにどっか探して息抜きにしていたものだ。
 ログインも登録も必要ないフリーのチャット。
 あの時はよくもまあ残ることもないカキコミを延々としていたものだと思う。
 相手に話を振って書き散らすだけ、まるでキャバクラでの相槌のよう、気楽な会話だった。
 今はチャットサービス全般がどうなったかよく知らないが、不適切な出会いや少女売春につながるというので大手が自主廃業、撤退、すっかり廃れたと聞いている。


 それぞれ部屋があって、開いていて、俺は人のいない部屋に入る。
 そうして先に待っていると誰かがドアをノックして話が始まる。「コンコン」なんてノックする。
 たいていはナンパとかそんなもの。

 ほとんどの連中がネタがないようで話を振ると考え込んでしまう。薄っぺらな話でなければ通じない。こちらの話す意味がよく理解できない。ああいうところはコミュ障の治療にはいいところだったかもしれない。

 大勢が同じチャットにいれば馴れ合うばかり、少なければ各自が疑心暗鬼、二人でいれば必ず誰かが邪魔をしにやってくる。
 穏やかに話しをしていれば取るに足りない話ばかりになる。何が好きだ嫌いだ。どこ住みだいくつだ男か女か。質問ばかり。 それか独り言と野次馬。
 あの頃はそれこそ色んな連中が色んな動機で集まっていた。それこそスクランブル交差点のようなものだった。


「メロン様だぞい」

 俺は「メロン」というハンドルを使ってチャットサービスを利用していた。
 メロンというハンドルには「女性」と印象を持つのだろう。よく野郎が絡んできた。
 ハンドルなんだからいちいち説明などしてらんない。なんとなく成り行きでつけた名前だ。チャットごときで女性だろうが男性だろうがどうでもいい。俺は無視した。
 否定も肯定もしなかった。

 チャットでのプロフィール交換には興味がなかった。お互いに話して出てくる発見、多彩な考え方、他はどうでもいいことなのだ。


 ハンドルは例の「メロン磨き事件」よりずっと前のことだ。




 そんな時、レズビアンの子と知り合った。
 「ゆぃ」と言った。
 俺はいつものように突っ込みな質問には答えないで受け流した。

 だがメンタルなこと、精神的な話には乗った。誠実に応えたつもりだ。それこそ、「独りよがり」なものではあったかも知れないが(笑)。
 本質を探ろうぜというこちらの意味は伝わったようだった。
 頭のいい子だった。
 「エルなのか?」「うん」そんなやり取りがあった。

 その子とは一晩で縁が切れることがなく、それからは暫く待ち合わせをしてチャットするのが恒例になった。
 俺たちは気の向くまま、ことごくをネタに振り合った。気付いた日常のこと、食事のこと、作法のこと、若い彼女にわかるように話した。
 世の中のことはまだ話してもそれほどわからなかったろう。まだ嫌韓や左巻きどもの売国がそれほど広がっていない頃だった。

 その子の方はあくまで俺をネカマと決め付けたようだった。年齢不詳のオヤジだと。

 最初は色々となんでも話して広げていたが、段々と毎日の話題から振り返りのことになり、ヒトの苦しみ、幸福の基準、生きること、やがて恋の話になっていった。

 個人的なことはさておいても、不滅の命題というのはあるものだろう。
 俺は人との間に壁をそうして作る。
 他人にあまりこちらを背負ってもらいたくない。群れたくない。みなが独りなのだ。
 そういうことが理解できる子だった。



 その子は次第にビアンとして悩んでいることを話すようになった。ずっと気になる同姓がいて、「いちいち絡んでくるな」と言われてしまうようになって嫌だ。こちらがビアンであることは悟られてしまっていると思う。それで「絡むな」と言われたりするのは痛いぐらい辛い。でもそれが逆に甘い気持ちを引き起こすのだ、と。
 俺は責任など持てないと逃げながらも、一緒に考えた。

 軽い助言を試してみたものだ。少しは彼女も慰められたところがあったかも知れない。



お互いの信頼関係ができつつあった。
 彼女は毎日の出来事をストレートにぶつけてきた。

 時には混乱したような様子も見せた。

 恋とビアンの悩みで、自分が押しつぶされてしまうような状況だったのだろう。
 俺は、もう耐えられないというその気持ちはよく分からないと言った。俺は自分こそがかわいいのだ、と。他人に期待するぐらいなら自分が先に与えてやればいいのだ、と。傷つく前に与えてしまえば自分を守ることができる、と。

 恋する自分をいとおしく思えばいい。

 俺はそんな風に答えた。


 よく甘えてくる子だった。

 依存するような感じにさえなった。
 そこへ誰か、ナンパぐらいしか頭にない男が入ってきて混ぜ返しをしたりすると、口汚くののしったりした。まるでチャット中に俺との信頼を宣伝するぐらいの騒ぎぶりになったりもした。顔も知らない俺とに絆を感じたのだろうか。喜びハシャいでいるのは分かった。

 ビアンの彼女にとって世の中の男はほとんどくだらない、信じられない連中だったようだ。

 泣きながら俺に甘え、笑いながら俺に悪態をついた。

 俺も信じるない方がいい、俺は言った(笑)。

 俺と直接会ってみたいと言うようになったが、それとなくはぐらかした。

 すると、ビアンでも男と寝ることぐらいはできるとか言う。会ってくれるってならそれだって構わない、と。

 ・・・ったく。

 俺を誰だと思っているんだ。メロン様だ。

 そこらのエロオヤジと一緒にするんじゃない。
 だいたい、どこに住んでるかどこまで出てこれるかとか、そういう話すら退屈だよ。


 クチの減らなさはウチの嫁のようで他人のような気がしなかった。
 高校生と言っていたが、頭のいい子だったから、話をするのは最初から楽しかった。
 ビアンにもそれなりの悩みがある。俺も彼女を友人と思ったかも知れない。まあ、少しは。


 そんなチャットの付き合いは半年は続いただろうか。
 ほとんど週に三回は一時間、二時間と話をしていた。



・・・
 ある日の夜、ウチのアヒルの状態が突然に悪くなった。体調が悪くなったようだった。
 後に切り抜けることになるのだが、その時は見守るしかない感じだった。

 俺は精神的に参った。
 もってあと何日か、明日医者に見せるにしてもどうなるか。我が家のペットを見ていて、そんな時だからチャットでもするしかないと思いついた。
 アヒル本人は元気そうにしているがとにかく食事を摂らない。鳥は苦痛があっても隠し、決して訴えない。

 こちらは見ているしかなかった。こみ上げてくるストレスを気分転換で晴らそうと思ったのかも知れない。



 きっとその時、その子もたまたま何かでとても悩んでいたのだろう。
 前にチャットで出た話の状況が悪化したとか、何かあったに違いがない。彼女は俺のアヒルへの心配ぶりにイラっとしたようだ。


 あのね、そんなアヒルなんか。・・・いや・・・いい。

 いいかけたことはすぐに分かった。
 こういうことで俺はあまり怒ったりはしない。
 ただ、俺はその時、ビアンのその子の、何かとても利己的な部分に触れてしまった気がした。レズビアンの彼女の強烈なエゴに触れたように思えた。

 俺はさよならも言わずそのままチャットからそっと無言で退出し、そこに二度と戻ることはなかった。
 その日からチャットはやめてしまった。


・・・

アヒルは命を取りとめた。


 違う意味で、ビアンの彼女に感謝することはある。
 あの夜、あれがキッカケでおかげでつきっきりでアヒルの面倒を看て、俺はとうとう勇気を出して処置をした。強制給餌をすることにしたのだった。
 おかげで我が家のアヒルは順調に体力を回復し、奇跡的に命を取りとめた。
 ネットを調べても原因がわからず、どうしても人間とは別な動物だからと何もしないでいるところだった。助かった。
 顔も知らないチャットの相手より、目の前にいるアヒルの方がずっと大事な家族なのだ。


 アヒルは自分で食べるようになるまで強制給餌を続けると体調を取り戻し、それから随分と長生きをしてくれた。

 本当によく生きてくれたと思う。

 様子を見るなんてしてたらきっとダメだったろう。
 そのキッカケにはなったあの日のちょっとした言葉の行き違いに、俺は今でも感謝している。



あれから何年だろう。今はそのビアンの少女もいい年なはずだ。
 きっと色んなことがあったろう。
 後悔なくやり切れているだろうか。

 投げやりになったりはしなかったろうか。

 誰かへの想いをつなぎとめることができたろうか。


 今でもあのビアンの子の、自由奔放でワガママで依存心の強い、甘えたような酸っぱい青春の心に触れたことを思い出すことがある。
 わずかの時間だったが、駆け抜けるようにして彼女との接点は終わった。
 俺はすっぱりとチャットと縁を切ってしまった。
 もしあれからチャットに舞い戻ったとして、俺はきっと言葉に困ったろう。俺にはやはり心底からはビアンの気持ちを理解することはできないのだ。それは誰が相手にしてもそうだ。


 たかだかネットでの出逢いだ。
 人にはそれぞれの人生がある。
 すれ違うこともまた人生だ。





 このブログは自分の遺言なんだと思うことにしている。飽きたりしないよう、せいぜい自分のために好きなように続けようと思う。



 そう。
 「泣かす」のだ。
 振り返れば泣けることもあるのだから。




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