ネジれた男
その若い男と俺は暫く同じ現場で仕事をしていて、俺の細々としたことを補助する役だった。
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あまり知識がなかったから補佐ということでやってもらっていた。
こっちが飛び回るその付き人みたいなものだ。俺のような人間についてくるのは大変だったろう。
異常な環境で、特別な毎日だった。
そいつは特別な家系の出ということもあって、武者修行ということで俺についたようだった。
七転八倒、色んなことを手がけた。
色んなところで罵声、怒号。それでも結局いつも大笑いして終わる。そんな日が続いた。
夜になるとよく飲んだ。そいつも俺を探しにかよく飲みに来た。
ある日、そいつから突然「あんたと別れることになった」と告げられた。
行く先は厳しく、逃げ出したくなるぐらいの場所らしい。1年かそこら、そこでまた武者修行だという。
不満がついクチをついて出て、あちこちに恨みも出た。「飛ばされる」という感覚だったんだろう。だがまだ若い奴だった。
ちょっと俺は少し説教のようなことを思いついて、気がついたら酒を呑みながらそいつに話していた。
灼熱の環境で国が、人々が揺れる。
厳寒の吹雪に民族と文化が火をともす。
コンクリートジャングルに絶望した者が崩れ倒れる街角。
若い連中はこれからの歴史というものに責任を持つ。
甘いことではない。
軽いことではない。
だがつまらなくはない。退屈はしない。
今のふんぞり返っている年寄りたちがどんなに馬鹿でも、無能でも、そいつらのケツを叩いて進めるべき方角へ動かすのは若いヤツラだ。
自分の国を作っていくことは栄誉なのだと思う。
だから俺はいつも楽観しているんだ。
どこへ行ってもやるべきことがあると思うから。
俺はそんなことを言った。
時間が経っていた。
お互いにハグし合い、別れとなった。
俺も涙が出ていたがお互いに笑っていた。
そいつは、言った。
「あんたは「もうダメだ」なんて言ったことがないのを俺は知っている。俺は見てきた。あんたは不可能だと拒絶したことはなかった。俺はそれを見た。俺にもそれができると信じるよ。」と。
俺は
「どうにかやっただけだけどな」と、またすぐヒネクレた。大人のカッコをつけたんだ。まともな賞賛を受けられないネジれた奴なのだ。
言われたことは嬉しいとは思った。だが最後まで悟られないようにした。
それにしてもいつのまにか男になったものだ。
一人になると嬉しくて少しまた泣いた。
歳をとった俺にはそんな試練はもう訪れないんだろうか。
