雨の中でまだ涙するな
嫁と毎晩のように呑む。
☆
買い物に行けば必ず外でも呑む。
嫁は女にしては酒が強い。が、俺ほどではない。
飲み友だちが嫁という幸福はかけがえがないものだ。
だが、ちゃんとしていてもらいたいと思うことはある。
嫁は股関節が痛いもんだから最近は酔うと特に弱気の虫が出る。
そして、こっちを見てため息をついて言ったりする。
「色んなことがあったね。ね。 面白かったよね。ね。
・・・ もう、いっかなって思う。」
この嫁の言葉そのものを書いていながらも、上気する。
その時の嫁の顔を思い出すと頭に血が上ってしまうのを感じる。
愕然とする。
頭にくる。
ふざけるな!
簡単に諦めるようなことを言うんじゃない!
「諦め」というのが俺には最大の罪悪に感じる。
どうも股関節の手術は、すれば死ぬ可能性があるものと思っているらしい。そりゃ手術だからリスクはあるだろう。 怖いならやらなくてもいい。
だから、そんな類の弱気は聞かせてほしくない。こっちは欝になるヒマもない。
俺はまだそんなに色んなことをしてきたつもりはないのだ。
「俺たちはお前たち人間には信じられない光景を見てきた。
オリオン座の近くで炎を上げる戦闘艦。
暗黒に沈むタンホイザー・ゲートのそばで瞬くCビーム。
そんな記憶も時と共に消える。
この雨の中の涙のように。
タイム・トゥー・ダイ さあ、死ぬ時が来た」
不機嫌で怒りっぽくて文句ばかりの俺と、最近すっかり弱気になった嫁。
常にどうにか、もがくしかない。
這ってでも闘い続けるのだ。
死ぬとわかる、その瞬間まで。
- 関連記事
