七旨粥(ななうまかゆ)運動の物語
初詣からの帰り道、人々は体が重くなっているのを感じることだろう。
運動不足と連日のご馳走のためにすっかりナマっているのだ。
そうして人々は正月料理に疲れた胃を休めようとし、古来から七草粥を求めてきた。
しかし時は現代。近未来だ。
環境破壊と気候変動が進み、七草を取り揃えることもままならない。
タワマンから溢れた汚水で汚染され、河原から自然の草さえ採取できなくなった地区もあった。
そうして人々はみな、そ知らぬ顔をして七草粥の話題を裂けるようになった。
クチにすれば自分たちの取り分がなくなるというばかりに。
七草はクサでありながらどこも品薄で高価なものになった。
そんな市場には遺伝子操作された七草も幅を利かせるようになった。
「自己責任」とされつつ、あちこちで七草粥セットが健康にいいと喧伝された。押し付けられるような圧力は不気味でさえあった。
これでは胃を休めるどころか不安な神経を逆なでする始末だった。
もはや年始恒例の癒しの七草粥は有名無実名なものとなってしまった。
そんな風潮に抗おうと、レジスタンスたちが立ち上がった。
七草へのこだわりを捨て、原点に還ろうと抵抗運動を始めた人々がいたのだ。
それが七草粥ならぬ「七旨粥(ななうまかゆ)運動」である。
冷蔵庫に残ったものを見繕い、正月の胃をすっきりさせる旨いものでシンプルな粥を作る。
胃と精神を休めようという新たな節句創設の運動であった。
これはそんな一人のレジスタンスの物語である。
まず土鍋を出す。
これはお一人様用のサイズ。家内と二人で仲良くつつく馴染みの土鍋だ。
これに水を入れ少量の鶏肉を入れてダシを取る。鶏はダシだから「七旨」にはカウントしない。
水は七旨とご飯の分量を考えて適量に。
塩少々と日本酒を少し入れて弱火にかける。
さて、七旨だ。
大根を少し薄めに切る。長芋は少し厚めに、まずはこれらを投入。
葉っぱモノを切っておく、最後に入れるので焦らない。
カブの葉、白菜、長ネギ。
これで五種。
シメジとインゲンを冷凍庫から出して入れる。これで七旨となる。
冷やご飯を入れて全体を混ぜると土鍋の温度が下がる。
そこに卵を入れる。昨日使った卵黄の残り、卵白もサービス。
上に野菜類を乗せて蓋をする。弱火のまましばし待つ。
最後に乗せた野菜は蓋で蒸らされ火が通る。
出来上がりだ。
七旨粥は土鍋ごといただく。
木の匙と箸を使って上手に。
いつもの土鍋でも本日は食器なのだと考える。だから取り皿は使わない。
蓋を取ると卵の白身が泡のようになって鍋の縁の飾りとなっている。まるでデコレーションクリームのようだ。
美しい粥に見える。
いただきます。
大根は透明、ダシがよく滲みている。
シンプルなダシで旨い。胃に優しい。
鶏は小さく切っているから目立たない。あくまでダシだ。
長芋が旨い。皮付きのまま切った。
洗うだけだ。長芋の皮は剥いたり削ることはほとんどしない。
長芋のヒゲが気になるときはガスレンジの火で焼いてしまえばよい。
オール電化ではこんなことは出来ないだろう。タワマンはオール電化だ。
蓋をして蒸された野菜は胃を洗うかのように体にしみわたる。
旨い味わいだが意外とカブの葉は歯にひっかかる。しぶとくて根性のあるヤツだ。
長ネギも風味があって旨い。よく長持ちしているネギだ。
クリスマスから持ち越してきた泥付きの長ネギ。庭にバケツを出して入れている。
ちょうどよく出来上がった卵。半熟だと見るだけで分かる。
慎重に黄身が流れ出さないようにし、匙を入れても乱暴に扱わない。
半熟の卵と粥、長ネギを絡めればそれだけで匙の上でひとつの料理だ。
散らされたシメジが顔を覗かせている。可愛らしい。
粒々した食感が口の中を転げ回って旨い。
そしてインゲン。大活躍の冷凍インゲンだ。
緑色が鮮やかだ。噛むとかすかに口の中で弾ける食感があって旨い。これなら冷凍庫のスペースを譲っても惜しくはない。
白菜は安定の美味。
厚いところが透明になるぐらい火が通り、逆に葉っぱのところはわずかに火が通っているのが望ましい。
部位により時間差でそれぞれを火にかけるのだ。
シンプルな鶏ダシと塩だけ。
いざという時に醤油と七味を待機させていたが無用の心配であった。
胃を休めるのに七味を使うなど本末転倒だったかも知れないが。
ごちそうさまでした。
新年のご多幸を改めてお祈りする。
実家に帰った家内から電話がない。ちょっとあんまりだ。
寂しいじゃないか(笑)。
美味しいものをいただいてしまうよ。
おそまつ
「ドンドン!。ドン!」
ヤバい! 七旨粥の手入れだ。最近は取り締まりが厳しいんだ。
アタシが七草セットを買ってないようだと密告され、モノホンのクサを自宅で栽培してるんじゃないか、遺伝子組み換えを否定しているんじゃないかと疑われている。
今どきネットで七旨粥のことを書いたと知られればいきなり連行される。
クサなんてアメリカで吸えばいいのさ・・・。
い、いや、これは誤解だ! これは土鍋ってだけだ!
アタシはただ鍋焼きうどんを食っただけなんだ!
もう食っちまったんだよ!
暦に疑義することなんてアタシはしてない! 独自の文化なんてない!
何をする!
嫌だ! 嫌だ! 助けてくれ! 教化施設なんかご免だ!
裁判をしてくれ! アタシにどんな非があるのか説明してくれ!
誰か! アタシの消息を!
・・・おそまつ
※ べ、別にタワマンをディスってる訳じゃないんだからねっ!www
・・・などと言いw。
アタシが留守にした時、家内に連絡を寄越さなかったもんだからその仕返しか(欝)。
こんな時、ペットたちが生きていてくれたらよかったのに。
厳寒の氷を張ったプールの下にひっそりとしていた赤い金魚の姿が懐かしい。
「ドン!。ドン!」
雪が屋根から落ちた。
豪雪地区ではないので、呑気なものです。サーセンww(笑)。
