金魚は死んで虹の橋のたもとへ
昨晩、選挙の結果の分析で議論になり、俺は大声になったりして深夜まで荒れた。
結果は俺たちとしては自民安定政権、維新躍進、それでよかったのだが、各政党が何を目指しているか、その想定で意見が違った。
最近、お前は虎ノ門ニュースとか見ているから毒されてはいまいか、「耳障りのいい話」ってのは「分かりやすい話」でもあるんだ。あまりに構図が分かりやすい話。たいていそこには嘘がある。お前はそういうのをむやみに信じるから、「陰謀論を信じる連中がいる」などとしたり顔で言う奴がいるのだ。
陰謀どころか、何かを企んだり目的としているということはある。不正はあり腐敗はあり怠慢もある。連中のわざとらしい自己弁護も自己実現欲求だけの欺瞞というのもあるんだ。それこそ分かりにくいあくまで裏の話だ。それが分からないのでは真の陰謀すら分からない、、、
・・・なんて、理解しない家内に畳み掛けた。俺はムズカシイ奴だ(笑)。
さんざん議論して二人とも不機嫌なまま寝てしまう。キスもせず寝た。
酒も呑んでいたからすっかり眠くなってしまった。
俺は突然に虹の橋が見えるところにいた。
向こうに虹を見て、当然のように俺はそちらに向かって歩いている。
膝はやはり痛い。
虹はまるでコロナ感染対策店を示すようなあのロゴ、ペンキで描いた絵のような虹だった。
そして舞台の描き割りのような空があった。
踏んでいるその足下もやはり絵のようなペンキで描かれた草や芝生に感じた。
虹に近づくと、そこに俺のアヒルと金魚がいた。いや、俺と家内のだ。
金魚は下で泳いでいて、アヒルは俺よりも大きかった。
やっぱり待っててくれたのか。
俺は二人を交互に眺めた。
そうだ、まだ家内が来ないからな。一緒に家内を待ってよう。
俺の気持ちは穏やかだった。議論したしさんざん言いたいこと、言うべきことを家内には言ったのだ。
今は特にわだかまりもない。言い残したこともない。
俺が腰を下ろすと、アヒルはくちばしで俺をつついてきた。
痛い。しかしこれがいつもの彼女の愛情表現だ。俺はされるままにした。
髪の毛がメチャクチャになった。
金魚がヒラヒラと足下を泳いでいて、こちらを上目遣いに見た。
なあ、お前はほんとに退屈してたのか? 俺は声に出さずに問いかけた。
金魚にはいつもそんな風に胸で話しかける。
金魚は庭の真ん中にしつらえているプールで泳ぐ。その金魚を俺はしじゅう気にかけて見て、俺は胸で話しかける。
狭いプールに一人でサカナは退屈している。家内はよくそういうことを言っていたから。
金魚とはあまり意思疎通ができている気がしない。しかし奴の態度はいつも楽しそうだ。
退屈かどうかは分からなかった。
とても穏やかに落ち着いていて優しい気持ちの奴に見える。
そんなに狭いとも言えないプールを悠々とあちこちを泳ぐ。一人だ。
夢うつつと分かっているような自分がいて、だからこれは夢ではない、そんな現実感があった。
こうしてじっとしているのも嫌なもんでもないな、俺はそう思った。
小便がしたくなったが、このままじっとしてようと俺はカラダを固くした。
アヒルと金魚の側にいられて俺は嬉しかった。
目が醒めたのは、隣で家内がいつものように突然に跳ね起きたからだ。
最近はそんな風に家内は目覚めて俺は起される。
俺は下へ降りていきコーヒーのためのお湯を沸かす。
家内も下に降りてきた。
コーヒーの支度をしていると家内が窓の外、朝の庭を見ていた。
どうした?
「サカナ、死んだ」
プールに横になり金魚が浮いていた。
まるで冗談のように体を折って浮かんだまま動かない金魚がいた。
ああ。
先日、プールのきわで動かない金魚を見たので家内にちょっと様子を見てもらいに行ってもらったばかりだった。
その前の雨の日はヒラヒラと楽しげに泳ぎながら横になったりして俺を驚かせた。
金魚は冬になると体の動きが悪くなる。
そうして金魚は氷の下で冬眠するようにして動かなくなる。そうして、いくつもの冬を越してきた。
「老衰だったと思うよ。病気と違う。こないだ元気に遊んでいたんだから。」
誰でもそうやって逝ってしまう。
別れを告げられることはあまりない。
これまで、何度も、何度も俺は毎日のようにプールの金魚を見た。気にかけた。
姿が見えないといつも不安になったものだ。
見るといつも俺は思ったものだ。お前は今どんな気分か、と。
台風の日、落ち葉がプールに遠慮もなく落ちた日、猫にプールの中を覗き込まれて困惑していた日、お前はいつも俺と一緒だった。
しあわせだったことを願う。
俺は何もしてやらなかったが見てはいた。窓からずっとお前を見ていたのだ。
俺はレクイエムを歌うガラじゃない。
虹の夢を見たことを思い出そうとして一日が過ぎた。
あの夢をまた見れるだろうか。
また行ったらまた待っていてくれるだろうか。
俺はそれだけが気がかりだ。
今でも時々、アヒルの夢を俺たちは見る。
サカナともそうしてまた会いたい。
これまで、ありがとう さよなら またな
※ 涙がちょっと出た。でながら書いた。
まだ早い。ろくに酒も呑んでないのに。
確かあれはタリバンの奴だったが、以前、バーミヤン遺跡をぶっ壊されて世界中が騒いでいる時に言い放った。
「アフガンでは毎日何人も子供が死んでるのに、遺跡ごときでこの騒ぎだ」と。
あれは確かマスード将軍って奴だったか。確か殺されたはずだ。
俺はその言葉にいたく同意して家内に言った。
すると家内は違うと言った。
「そんなの自分の国の子供のことじゃない。お前が言うなって感じだよ。」と。
思い出したこと。
