ブレックファースト、隠れメシ屋の朝
欧州の隠されがちなメシ処、なーんて、自分だけの記憶かと思っていた。
映画を見て、それが普通かとふと気が付いたのです。
どこにも隠れた場所があり地元の場所があります。
「よい映画」には食事のシーンがある。
想い出には隠れた店で食事したことが残っています。
「ああ、じゃあ、そりゃあきっと『よい想い出』だw。」
「・・・」
教えられたそこは街道沿いの店でした。
もちろん、看板はありません。
人に聞かなければ、そこが朝食を出してくれる店だなんて分かりません。
誰でも知っている場所だから必要もないのでしょう。
余所者を拒否しているようにも見えます。
朝食を出してくれるホテルのはずが、運悪く卵が切れていた。
それは困ると言うと、教えてもらったところはちょっと先の街道沿いの石造りの建物。
ポツンと一軒だけ建っていました。
★ そこは夕方からはビールを出して、朝は朝食を出してくれるような店。パブです。
地元の人のよく知っているメシ処でもあります。
入ると、朝のコーヒーの匂いがたちこめていて、フレッシュな気分にさせてくれた。
前夜の店内はさぞかしビール臭かったのでしょう。それでも朝はさっぱりとしている。
濡れたモップで床が適当にビショビショ、だらしなく掃除されている。
朝食はごく簡単なものです。
卵と脂の少ないベーコン、そしてパン。そんなもの。
メインはコーヒーです。
卵を焼いて、油に漬けた野菜なんかもついてくる。
客は男ばかり。すでに何人かいて、朝からビールを呑んでいる人もいた。
ジロリと一瞥をくれると、またみな、何ごともなかったように新聞やグラスに目を戻す。
外は霧が出ていて湿っています。
もう寒い季節です。
場違いなコートを着ているためか、歩いていると霧でコートが湿ってくる。
外の街道はときおりクルマがゆっくりと通り過ぎてゆくぐらいです。
鳥が電線のない空を鳴きながら飛んでいるのが聞こえます。
ヒバリのように聞こえた。
また何人かが店にやってきて、同じものを注文します。
みな押し黙っていてほとんど口をききません。
外国人がいるのがわかると余計にクチをつぐんでいるのが分かります。
ムッツりとして、顔に刻まれた皺がまた深くなる。
警戒は怠りないというサイン。
こちらも、別にいちいち挨拶などしなくてもよい。
押し黙って不機嫌そうにコーヒーをすすっていればよい。
地元の連中には「お邪魔をした」「やがてすぐに立ち去る」、そんなサインを返してやればよい。
やがて昼近くなれば太陽が曇り空から薄っすらと少しだけ射して、空気も乾燥する。
そうしたらバスも通る時間でしょう。
みながよく来る地元の店です。
誰も私に声をかける人はいません。
店の、胸を突き出すようにした姿勢のよい女が機嫌よく私に声をかけてきた。
「ああ、あそこだったら朝食が出るでしょ。」
「そうなの、卵がないんじゃしょうがないわよねww。」
余所者は彼らに輪をかけて不審なままにしている。
寡黙、沈黙の中に意識が錯綜している。煩いぐらいだ。
それでもどこかに敬意ぐらいはあったかも知れない。
地元の店に来た者を迎えて。
お互いの運命が交差しないことを祈りつつ。
そこは木立すら見えない草原だらけのところ。
孤独に耐えない者は近づかない。
よきげんごろしゅうに
