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padroll号、時空の航海日誌


 自動点灯が働いて辺りが明るくなった。
 私は軌道計算のパネルから顔を上げた。
 コントロール・デッキに下りてきたパートナーは元気そうだ。
 まだ薄いフィットネス・スーツのままだ。
 隆起した体の部位が誘うようで私の目をひきつけた。

 化石のようなモダン・ミュージックが艦内でかかり始めた。
 深く考えなければいい。
 コンピューターなりの気の利かせ方なのだ。受け容れてやればいい。


 そろそろ時間になったろうか。
 慌しいミッションを終え、ひとまずの区切りがつけられそうだ。

 艦内のサーモスタットは停止したままだ。室温は8度。息が白い。
 このところのエネルギー制限にはもう慣れっこだ。
 燃焼コストが計算され、基準値を下回らねばスイッチが入ることはない。

 私たちは防護服を重ねた。



 静かな艦の中に思えるが、キーンという高い金属音は鳴り続けている。
 船の心臓部の運転音なのだ。
 これにもすっかり慣れっこになった。
 この音が止むことはない。

 一方、船の外は音のない静かな世界だ。静まり返った闇の空間だ。
 あてのない航海の日々が続く。


 私たちは薄いコーヒーを飲んだ。
 その味気なさを噛み締める。

 様々な合成化合物、添加物。我々の体は毒素に満たされている。
 それが退屈という病から我々を遠ざける。
 刺激物は精神の安定剤だ。
 合成酒の酔いでも香りというものを思い出させるのには十分だった。
 私たちは郷愁をそこに感じ取る。失われた自然への。



 なにはともあれ、無事に廃棄物を船外に放出することができたのはよかった。
 スケジュール通りでなによりだ。
 廃棄ダクトに廃棄物が吸い込まれてゆくのを見送り、射出完了を確認して安心する。
 見えない闇へと廃棄物が排出されていったのだ。
 もし詰まれば大惨事だ。

 調子がいいのはこのところずっとポットだったからか。
 グリーンも頻繁に接種してきた。
 こんなに状態がよいことが長く続くことはなかったかも知れない。

 吉兆、正常であることが吉兆とはどんな皮肉だろうかと思う。


 代謝がよいはずの若い頃、パートナーはゆうに一週間は船外排出しないのが普通だった。
 それでも尋常性痤瘡、つまり目立ったニキビにもならず、肌反応に異常はなかった。
 しかしさすがに廃棄サイクルが不調なのは不安だと、薬もよく服用していた。

 艦内でのトレーニングのおかげか、今ではちゃんと毎日の船外排出ができているようだ。
 あのピンクの小粒はもはや見かけることはない。


 長い航海でお互いに歳をとったということだ。




 ヨーソロ、こちら宇宙船padroll、地球時間を確認。
 通信を続けている。

 先は暗く、近くには星も見えない。
 どこか遠くの銀河では長い戦闘が続く。その炎を我々が見ることはない。
 漆黒の闇の彼方に遠くの星々の点がまたたく、闇に小さな点が散らばっているだけだ。
 手が届くことはない。

 今晩は補給は合成酒からだ。

 コンピュータから送られてくる遥か遠くのデータ。
 それは暗黒ガスの発生や爆発、崩壊した電子量で戦闘の激しさを示している。
 同情も憐憫もない。
 理由のない戦争などない。

 そして、現実感を失った我々は彷徨える宇宙の浮遊物に過ぎないのだ。
 彼らを止めることなどどうしてできようか。


 パートナーは少し酔ったようだった。
 宇宙酔いだろうか。
 「もう寝るかな」
 「そうするか」

 「目覚めればまたどこかで嫌なことが起きている」
 思い出したようにパートナーはきっぱりと言い切った。

 「そうだな。立ち向かわないといけない」


 私たちは発信を続ける。
 先の見えない旅、それは終わりの見えない旅だ。




 時空を旅する我々に見えるものは記憶の断片のようだ。
 それはいつか見た光景でもある。

 いつか起きたことが遅れて私たちを通過してもゆく。
 光を超えた速度だ。時間の連続性はもはや存在しない。
 暗闇に質量を感じさせない空間が無限に広がっているだけなのだ。

 数億の距離を進めばそこは過去であり、数十億の距離を彷徨えば未来へとまた戻っている。
 眩暈のしそうな時間の跳躍。

 錯乱しないのは私たちが船とともに動いているがために過ぎない。
 そのためにこそ私たちは暗い宇宙の闇を航行し続ける。




 すでにパートナーはコールド・スリープに入っていた。
 やや大きめのノイズが聞こえた。
 パートナーの生命維持装置に異常はない。
 私も隣のカプセルにそっと潜り込んだ。


 また数億キロを旅し、気がつけば私たちは進んでいることだろう。
 そこが過去か未来かはまだ分からない。
 また目覚めた時、いつか通ってきた過去を繰り返すのか、まだ見ぬ未知の未来なのかは神のみぞ知ることだ。
 いや、これは神にさえ見放された航海かも知れない。


 こちら彷徨える宇宙船padroll。
 宇宙時間を確認した。シンクロレベルは不定。

 タイム・スキップに備え意識を深層に解放してゆく。
 沈み行く意識の中で私は絶望を希望に代えた。
 コールドスリープのコツだ。悪夢など願い下げだ。


 私たちは宇宙に取り残された二人だけの乗組員。

 依然として先は見えない。

 よい年を迎えられるよう祈っている。


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